『ベルカ、吠えないのか?』




ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?


                      <あらすじ>
太平洋戦争において、唯一日本軍に占領されたアメリカ「本土」がある。1943年、アリューシャン列島。アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。だが島には「北」「正勇」「勝」の三頭と“捕虜”である「エクスプロージョン」の計四頭の軍用犬が残された。彼らのうちあるものは米軍の軍用犬として、あるものはシベリアの橇犬として第二の生を得る。彼らは死に、生まれ、死に、生まれ、純血を保ち、交雑を重ねながら拡散し、交錯し、再び一つに収斂していく……。


犬の世界史。20世紀を軍用犬の世紀と捉えて書かれた作品。
研ぎ澄まされたソリッドな文章により、読んでる最中の疾走感が著しい。ただラストのフィナーレに向かって盛り上がっていく作品というよりは、各エピソードの繋がりの結果としてこの結末を迎える作品なので読後感はそれなり。その分、各エピソードの出来は正に珠玉。
二度の大戦、朝鮮、ベトナム、アフガン、彼らを必要とし、翻弄する戦争。キスカ島で日本の軍用犬として死を迎えるイヌ。ベトナムの崩落した地下通路で血みどろの戦いを繰り広げる両陣営のイヌ。中南米の麻薬組織で家族として飼われるイヌ。ドッグショウにてただ美しさだけを求められるイヌ。橇を引く事に生きる意味を見出すイヌ。永久凍土に埋もれたマンモスの瞳にイヌの神を見出す半狼のイヌ。そしてイヌ紀元ゼロ年と評される1957年、全てのイヌ達が空を見上げた日。イヌイヌイヌイヌ……その優秀さ故に都合の良い道具として使われた「彼ら」。
それでもやはりイヌはイヌで。猿などよりもよほど人間に近しい生き物で。柴崎コウじゃないけど泣きながら一気に読んでしまった。お薦め。


あと、あんまり関係ないけど、漫画アクションで連載してる『真・異種格闘大戦』が今週号から自然美の極致と謳われる狼と、人によって好き勝手に改良された醜い土佐犬の組み合わせなので期待。